大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)2626号 判決

被告人 座間春枝

〔抄 録〕

そこで、記録を検討すると、起訴状記載の公訴事実によれば、「被告人は、自動車運転の業務に従事していたものであるが、昭和五〇年三月一八日午前九時四〇分ころ、普通乗用自動車を運転し、千葉県夷隅郡大原町大原八、七五〇番地先幅員約七メートルの道路を、大原町貝須賀方面から同町深堀方面に向け、時速約三〇キロメートルで進行中、前方左側に普通乗用自動車(軽)が駐車しており、右側にも普通乗用自動車が駐車していて、更に右側の駐車車両の後方より自転車に乗車して対向してくる渡辺まさを前方約一八・三メートルの地点に認めたものであるが、このような場合、そのまま左側の駐車車両の右側を進行すれば、道路幅員が一層狭められ、かつ、自転車乗りは、往々車両の接近に驚いて、その操縦を誤り、ふらつくなどの事態が予想されるから、直ちに一時停車して同人の通過を待ち、しかるのち、進行するなどして、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然前記速度で左側の駐車車両の右側を進行した過失により、自車の接近に驚いてふらついてきた同人を約八メートル先に認め、危険を感じ急制動の措置をとったが及ばず、自車右前部を同人に接触させてその場に転倒させ、よって、同人に対し脳内出血の傷害を負わせ………死に至らしめた。」というのであり、したがって、本件訴因である被告人の過失は、幅員約七メートルの道路の左右両側に自動車が駐車し、その間を自転車を操縦した被害者が対向通過するときは、被害者と左側駐車車両との間には被告人車が安全に通過できる間隔はないから、右駐車車両の手前で停止、避譲すべき注意義務があるのに、これを怠り、進行した過失、すなわち、駐車車両手前での停止、避譲義務の違反であることは明らかである。そして、記録によるも、原審の審理を通じ右の訴因を中心として攻撃、防禦が行なわれていることは、所論指摘のとおりである。ところが、原判決が罪となるべき事実として認定した過失の内容は、「このような場合、そのまま左側の駐車車両の右側を進行すれば、道路の通過有効幅員が一層狭められ、かつ、自転車乗りは往々車両の接近に狼狽してその操縦を誤るとか、自転車の進行路に障害物があって自己の車に接近してくるおそれのある状況等の事態が予想される場合は、自動車運転者はたえず前方から来る人車の動静に注意し、場合によっては警笛を鳴らして注意を喚起し、安全に擦れ違うことができるよう進行すべきはもちろん、状況によっては、いつでも減速、急停車する等臨機の処置をとって事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然前記速度で左側の駐車車両の右側を進行した過失により、………自車の右前部を同人に接触させて、その場に転倒させ………」というのであり、原判決の付加説明によれば、「本件事故に直結する過失として検察官の主張する一時停止又は避譲………をとらえるのは適切でない」というのであるから、原判決の認定した過失は、その態様、過失のあった時点、その前提条件等において、本件訴因の明示する停止、避譲義務違反とは別個のものというべきである。このように起訴状の訴因に明示された過失を認めず、それと異なる態様の過失を認定するには、被告人の防禦の機会を与えるため訴因変更の手続を要するものといわなければならない。ところが、原審でこの訴因変更手続を経た形跡は記録上存しない。したがって、原判決がこの手続をとらないで明示された訴因と異なる過失を認定したことは、違法であり、この訴訟手続の法令違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかであり、原判決は、破棄すべきものである。

(草野 大前 油田)

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